カジュアルとナラティブ

サラリーマンを辞めて独立した当時、オリジナルゲーム企画を開発会社に買ってもらうことで生計を立てていこうと、ぬる~く考えていた。

どのデベロッパーも請負だけでなく自社タイトルを開発したいという考えはある。しかしながらゲームビジネスはとにかくコスト面でのリスクが高く、加えて競争率の高い市場である。なので企画を持ち込んでも「ふ~ん」で終わることの方が多い。

逆に言えば「開発リスクが低く販売ポテンシャルの高い」企画を提案すれば、それなりにマジメに話を聞いてくれると考えたわけだ。

魅力的な設定・世界観はゲームを訴求する上で重要な牽引力となる。
ハイパーカジュアルの様に世界観を限定しないからこそ広域ターゲットを狙うジャンルもあるが、これは莫大な宣伝費があるからこそ成り立つする商売だ。

小規模のスタジオが投じる宣伝費以上の訴求効果を得るためには、やはりアーリーアダプターからのバイラル訴求効果を狙わざるを得ない。

シナリオのあるゲームはバイラル効果を生みやすいが、ゲームでまとにもシナリオを語るにはそれなりのセンスとスキルと体力が必要だ。

だがゲームというのはユーザーが独自の解釈でシナリオを妄想できる唯一のメディアだと思われる。いわゆる“ナラティブ”というヤツだ。
ファミコン世代の自分は、メトロイドのエンディングでサムスがスーツを脱いだシーンに様々な妄想を掻き立てられたものである。

そこで、以下の組み合わせが最適な訴求効果を生む!という仮説を立ててみた。

カジュアル(パズル)の中毒性 + 魅力的な世界観 = バイラル訴求効果

その仮説に基づいて考えた原案が、この『塔と少年』である。

ゲームはひとりの少年が塔の外壁を上るところから始まる。この塔、天辺が見えない。緩やかに湾曲していて、上った先が空に繋がるのか地上に戻るのか、それもわからない。

ゲーム中は言葉による説明やセリフは一切出さない。ただ「塔を上る」というシンプルな目的と「その先に何があるの?」という知的好奇心で継続意欲を高めさせる腹積りである。

ゲームは”スリーマッチパズル”。
当時『キャンディークラッシュ』が爆発的に流行っていたので、このルールに基づいてルートを開拓していく遊びであれば老若男女が理解できるだろうと考えた。

そしてゲーム性(リスクマネジメント要素)とマネタイズ(販売アイテム)の観点からHP(体力)マネジメント制を取り入れる。
ゲーム目的と直感性の薄いパラメータを取り入れるのは(今更ながら)あまりよくないことだが、いろいろ迷った末HPにしてしまった。何故ならバトル要素を入れたかったからだ。

ところでこのパズル、『XI』の様に一度ブロックをマッチングさせたら、一定時間内に隣接する別のブロックをマッチングさせてチェインをつないでいくコンボシステムを採用している。
これで1ターン中により多くチェインを繋いで距離を稼ぐという短期目標を提供する。

(本当は落ちゲーコンボを作りたかったのだが、どうもうまい料理の仕方が思いつかなかったというのは内緒のはなし…)

体力という概念がある以上は、それを削る存在も登場する。つまり敵である。

ステージカテゴリの最後のステージに登場する、いわゆるボスであり門番なのである。
プレイヤーは

・効率的にパズルをこなす
 →攻撃用のコマンド発動数を稼げる
・より多くのコマンドを発動する
 →より多くのダメージを与える

というセオリーを学習しスキルを磨いていくのだが、上層階に登るにつれて門番もタフになっていくので、プレイスキルが追いつかない部分を課金アイテムで解決してもらおうという腹積りである。

「敵だけじゃコマンド使う機会少なくね?」というツッコミを回避するために、ところどころでコマンドを活用して道を切り開くギミックも加える。

(横に要素を追加してボリューミーに仕立て上げるのは、コンシューマーゲーム開発者の悪い癖である。。。)

基本シングルプレイのゲームだが、ナラティブ感というかユーザーの妄想力を高めるためのスパイスとして、主人公と同じように呪いを背負ったキャラを登場させて共に行動させる。基本はいっときの付き合いになるが、出会いと別れを繰り返すことで成長している感を与える。

登場するキャラは類人猿から始まり、どこかで見たことがある歴史的な著名人(ぽい誰か)、更に上層部に行くと人間が進化した姿や或いは宇宙人など…。この塔と時間の流れの関係を匂わせることで「その先を見てみたい」欲求を更に促す。

ちなみに商材としての活用も考えるが、モデリングコストが高そうなのと「そういうのが作りたいんじゃないんだよなー」というヘタな作家ポリシーが働いて、収集・継続モチベーションを高めさせるための味付け要素として落ち着かせました。

ソーシャル機能を持たせるのであれば独立した機能ではなく世界観の中に落とし込みたい。そこで考えたのが、辿り着いたプレイヤーが”いたずら書き”を残せるソーシャルギャラリー。

触れ合う程度の繋がりを機能として持たせることで、競争意識や自己承認欲求を芽生えさせ、コンテンツへの柵を強化する魂胆である。

とまあだいたいこんな感じにまとめて、意気揚々といろんな会社さんに紹介したのだけど、「複雑」「もっと単純な方がいい」「3マッチは女性しか遊ばないよ」とか、正直あまり好感的な意見はもらえなかったです。。。

いま見直すと自分でも「ローコストをうたっていたはずなのに、すき焼きみたいな企画になったなー」と思ってしまう。
ナラティブで継続意欲やバイラルを促す目的なら、もっとローコストで効果的に使える手法が思いつくけど、いろいろやりたいことを捨てきれなかった感がひしひしと感じられ。。。(反省)

とりあえず営業ツールとして活用できたし、イメージもそれなりに時間をかけて描いたので名刺の裏を飾る素材として使ったりと、いろんな意味で独り立ちをサポートしてくれる原案となりました。

あとがき

当時に比べるとハイパーカジュアルのタイトルも相当増えて、いまやゲームアプリシェアの40%を占める人気ジャンル!そして20本作って当たり1本(5%)の超レッドオーシャンビジネス!!

広告視聴=プレイという観念をユーザーに定着させたのがハイパーカジュアルの業界に対する最大の貢献だと思うのだが、リテンションが低いため売上をキープしていくためには絶えず人を入れ続けていく必要がある。

入口に来てくれたユーザーを(無課金期間中に)如何に奥に誘導させるかが課題なのかと。ライトからコアに成長してくれればLTVも上がりますし、広告視聴に頼らない別の収益方法も選択肢に入っていくでしょう。

想像力や知的好奇心をくすぐるような設定・世界観、ナラティブ手法は、リテンションを高めバイラル発信を促すのに効果的でしょう(きっと)。

《引用作品》
・『キャンディークラッシュ』(キング・デジタル・エンターテインメント)
・『XI』(ソニー・コンピュータエンターテインメント(1998))

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です